1990年代

サラントヤとハル・サルナイのCDアルバム
サラントヤとハル・サルナイのCDアルバム

1997年夏の印象――モンゴル東部へ2000㌔の旅(6)

若きミュージシャン

 

     スフバートル県から戻ると、ウランバートルは大都会だった。整然とした舗装道路、街路樹、高層マンションがまぶしい。

  都会でも時々停電や断水に悩まされるようだが、水道も電気もあるマンション暮らしと、地方の暮らしとは余りにも違う。

  停電さえしなければ、テレビ番組も存分に楽しめる。今や日本のトレンディー・ドラマ、世界の最新ヒット曲を集めたMTV、内モンゴルのドラマなどが放送されているのだ。世界の文化や情報に触れる機会は、格段に増えている。

  外国の文化に敏感な若者がまず夢中になるのがロックやポップス。人気ミュージシャンが最近、度々新聞に登場する。彼らがモンゴルで今、一番元気がいいのではないか。

  ウランバートルでは百貨店などあちこち回って、最新の音楽CDを何枚か購入することができた。

  サラントヤ(サラー)の最新アルバム「アルガグイ・アムラク(離れられない恋人たち)」は前回のアルバム「夢のゴビ」同様モンゴル民謡を取り入れながら、よりポップで洗練された仕上がり。1曲目の「プライドの風」は「あなたには用がない」と堂々とした女性を歌う。ジャジーな「あなた誰なの」もいい。「善と悪」は民謡風の旋律だが、ラップも取り入れた斬新なアレンジ。

  サラーは「ポップスの女王」と呼ばれるだけあって、抜群の歌唱力、表現力だ。最近、男児を出産し、人気の座は「エロスの女王」アリオナーに代わっているようだが、長く活躍できる歌手だと思う。

  知り合いの息子14歳のエルデネは「サラーはもう古い」と言って、新しいバンド、スンスの歌が入ったテープを私にくれた。カメルトンも好きだという。

  カメルトンは男性4人のポップス・グループ。アルバム「18歳」を聴くと、アカペラもこなしていて、なかなかの高水準。ソフトで、さわやかなハーモニーを聴かせる。

  ハル・サルナイも若者に人気がある。ラップ・テクノという触れ込みの男性デュオ。ハル・サルナイ(黒薔薇)という名前からにしてそうだが、歌もファッションもとんがっている。そこが受けるのだろう。

  彼らのアルバム「GREAT & DESTROY」はかなり刺激的だ。1曲目「作って、壊して」は地球温暖化がテーマ。2曲目の「私の故郷」は聞いたことがあるような歌詞だと思ったら、ナツァグドルジの「わが故郷」そのもの。革命直後に活躍したモンゴルが誇る詩人・作家で「わが故郷」はモンゴル人なら誰でも知っているだろう。それを乗りのいいリズムで、ラップ調に歌っているのだ。

  今の音楽状況について、作曲家協会のジャンツァンノロブ元会長は「西欧の安易な模倣は増えても、本当に高いレベルで創作できる人材がまったく育っていない」(1998.5.7朝日新聞夕刊)と見る。しかし、モンゴルの若いミュージシャンの音楽を実際に聴いてみると、そうとは言いきれないように思う。

  彼らの新しい音楽には、伝統の力や民族の誇りが感じとれる。第一、欧米の模倣だけで通用する時代ではない。むしろ世界のいろんな音楽を聴いて、もっともっとオリジナリティーを育てていってほしい。

  都市化、情報化、グローバリゼーションががますます進む21世紀、モンゴルの文化はどう発展し、地方の暮らしはどう変わっていくのか、見守っていきたい。

 

<『モンゴル通信』№32(1998年12月、アルド書店)掲載>