1980年代 留学日記から

ナツァグドルジ劇場(1986年5月、ウランバートル)
ナツァグドルジ劇場(1986年5月、ウランバートル)

私のモンゴル8

文化・芸能レポート⑤

演劇


 1985年には、映画「ぼくはきみのことが好きだ」のようなセンセーショナルな作品が演劇界にも登場した。E・オヨン作の「ガルバー」だ。

 主人公ガルバーは定年退職後も、教え子らに尊敬され慕われている。長年の教師生活のなかでたくさんの子どもを立派に育ててきたにもかかわらず、自分の一人娘ときたらヤミ商人で、警察に引っぱられたりする。ヤミ経済や教育問題というシリアスな問題を取り上げながら、見る者をジーンと感動させて幕を閉じる。母として、教師として苦悩し、突き抜けていこうとするガルバーの姿に心打たれる。

 D・ミャグマル作「宴席の羊肉」は、都会やいなかの私利私欲にかられた俗物どもを痛快に笑い飛ばす傑作喜劇。二人の牧民サムダンとドルジのかけ合いは絶妙で、G・ミャグマルナランとCh・ガントゥムルが熱演していた。笑いの渦の中に入りきれなかったのは悔しかったが2時間半、充分に楽しめた。やはり、役者、演出、脚本が三拍子そろってこそいい芝居になる。

 ナツァグドルジ劇場では他に、モンゴル劇ではD・ナムダク作「ある研究者のお話」やL・ヴァンガン作「医者たち」やドジョードルジ作「純愛」を見たが、脚本、演出の面で今ひとつだった。

 翻訳劇も何本か見たが、1986年にレパートリー入りしたゴーゴリの「検察官」が役者らの芸達者な演技が光り、いい出来だった。戦争の傷みを引きずって生きる母親を描いたY・ヤコブレフ作「あなたはだれ」にも感動した。第一幕は退屈したが、第二幕の後半で登場人物たちの内面が鮮明になるにつれぐんぐん引き込まれた。「終わり良ければすべて良し」とはこういうことだと思った。


 さて「モンゴル文化・芸能レポート」と銘打ってはみたものの、あくまで私個人が見た範囲に限られているし、私なりに取捨選択している。その管見からいうと、発展途上にあるモンゴル文化がもっと伸びていくには、いい文化を見る機会を増やすことが必要だ。モンゴルでは、映画などソ連や東欧の文化に触れる機会は多い。だが、いいものを選択・紹介してほしいものだ。ボリショイ・バレエ団レベルのものを呼べないものだろうか。


(モンゴル研究会会報『ツェツェックノーリンドゴイラン』1988年9月号掲載)