1990年代

1997年夏の印象――モンゴル東部へ2000㌔の旅(3)

ダリガンガ名所旧跡めぐり


    目的地の一つダリガンガは、全国的に知られる名所旧跡の地だ。

  ウランバートルから東南へ約560㎞行くとスフバートル県の県庁所在地バローンオルト。ダリガンガはそこからさらに南へ約170㎞の中国国境地域である。


ガンガ湖 面積は4平方㌔、白鳥など渡り鳥が群れることで有名な湖(スフバートル県ダリガンガ郡)
ガンガ湖 面積は4平方㌔、白鳥など渡り鳥が群れることで有名な湖(スフバートル県ダリガンガ郡)

白鳥の湖

  ダリガンガのアルタン・オボー山は信仰の山。5年毎にオボー祭りが行なわれ、1994年の祭りには全国から6万人が集まったという。スフバートル県の人口が5万人だから、一大イベントだ。女人禁制なので私たち女性は下で待っていたが、数十分で登れるなだらかな小山である。頂上の真っ白なオボー霊陵が下からも見える。

  付近は湖や沼が点在し、比較的水に恵まれているようだ。保養所や児童休暇村もある。ガンガ湖の近くに観光ゲルが1週間後のオープンめざして建設中だった。

  アルタン・オボー山近くの広大なガンガ湖には10月頃、シベリアから白鳥が2000羽も渡ってくるそうだ。湖の脇には、大きな音に反応して水が沸き上がる不思議な泉があった。


シリーン・ボグド山 標高1778m。麓にアザミが咲き乱れていた(スフバートル県ダリガンガ郡)
シリーン・ボグド山 標高1778m。麓にアザミが咲き乱れていた(スフバートル県ダリガンガ郡)

義賊ゆかりの伝説の山

  ダリガンガ郡の中心地から東へ車で1時間半程のシリーン・ボグド山も名所だ。義賊ゆかりの伝説の山である。麓の平原には、紫色のアザミの花が咲き乱れていた。

  山のすぐ南は中国。まさに国境地なので、近づくとどこからともなく馬に乗った国境警備兵が二人やって来た。ナムジム先生が準備していた入山許可証を警備兵に見せて登る。標高1778mの県内最高峰で、頂上からは360度のパノラマが楽しめる。

  この山を拠点にしていた義賊は、貴族や富裕牧民から馬など家畜を盗んでは、貧しい牧民に分け与えた。モンゴル人なら誰もが知っている伝説で、民謡や詩などにもよく出てくる。山の麓の「あの大きな窪地は、義賊が盗んだ馬を置いていた所だ」とナムジム先生が教えてくれた。


アルタン・オボー山と人物石像(スフバートル県ダリガンガ郡)
アルタン・オボー山と人物石像(スフバートル県ダリガンガ郡)

ユーモラスな石像群

  シリーン・ボグド山からダリガンガ郡の中心地に戻る途中、平原の洞窟に立ち寄った。広大な平原にぽっかり穴があいているようなもので、大変珍しい。

  だが何よりも驚いたのは、ダリガンガ一帯に点在する人物石像だ。平原にポツンとたたずむ姿はどこかユーモラスで親しみを感じる。長野県安曇野の道祖神を思い出す。

  契丹時代(10~12世紀)の遺跡といわれているが、誰が何のために建てたのか、はっきりしたことは不明だ。私たちが見た範囲では、男女ペアの像もあったし、男性、女性、男児の3者の各像が間隔を置いて建っていたのもあった。

  作家S・エルデネもグループでここの石像群を視察に訪れ、<アルディンエルフ 1997.9.24 №219>に旅行記を書いている。それによると、ダリガンガ周辺の南北260㎞・東西70㎞内の地域に、このような石像が約50体ある。最近では、13世紀の遺跡だと見る学者もいるそうだ。

  エルデネら一行は視察の結果、人物石像群を含めダリガンガ地域を国の保護地域に指定するよう提案すると決めたという。何百年も風雪に耐えた草原の人物石像は、いろんなことを語りかけている。ぜひそのまま大切に保存してほしい。


<『モンゴル通信』№29(1998年3月、アルド書店)掲載>