私のモンゴル13
食料事情⑤ 野山の味
春、つくし、よもぎ、わらび、ぜんまいなどを求めて野山を歩くのは楽しい。モンゴルの人たちもそんな楽しみを知っている。牧民といえども年がら年中、家畜と牧草だけを追っているわけではない。暖かい季節には、野生植物の味を求めて野山を歩き回る。
7月から8月にかけて、知り合いのモンゴル人に誘われて、木の実や野いちご(グゼーエズゲネ)、キノコなどを採りにウランバートル市南のボクド山によく登った。
一番よく採れたのがハッドの実。1メートル程の低木で熟した実は黒色だが、熟す前の赤い状態で子どもたちがどんどん摘んでしまう。モノスの実モイルもよく採れ、ときどき紙包みに入れて路上で売られていた。こうした木の実は直径5、6ミリ程の小さなもので、甘酸っぱい。そのまま食べてもいけるが、砂糖水に漬けてジュースにしたり、煮てジャムにするのもおいしい。
ノホインホショーの実は文字通り、犬の鼻面のような形をしている。煎じたら胃腸薬になるとか。ビタミン豊富で体にいい、とモンゴル人が最も珍重している木の実がチャツァルガナのオレンジ色の実。そのエキスの瓶入りが自由市場で高値で売られていた。
ウランバートルの夏は意外と雨がよく降り、ボクド山の松林の根元にはキノコが結構たくさん生えてくる。だが山のキノコは、モンゴル人よりもロシア人の方がよく採っていた。
モンゴル人が昔から好んで採り食べているキノコは「草原の白キノコ(タリン・ツァガーン・ムーク)」。あの乾燥した草原でわずかな水分を吸って生えてくるだけあって、パワーは抜群。肉並みのたんぱく質が含まれているとか。ウランバートル市西部の草原に白キノコを採りに行ったことがある。教えてもらった通り、ターナなど比較的水分が多い草(ハル・ウブス)が固まっているキノコの輪(ムークニー・トゥグルク)を目指して、手の甲ほどの白キノコを探し回った。
ビニール袋いっぱい集めて持ち帰ると、さっそくバター炒めにしたり、スープの中に入れたりして食卓に。割と歯ごたえがあって、あっさりした肉という感じだ。残りは窓辺で干しキノコにした。
草原がすっかり黄色に変わる8月下旬、白キノコも消えてしまう。その頃になるとサマル(松=ホッシュの実)が採れる。9月上旬、街行く人はそろいもそろってサマルを片手に、口をカリカリ、モグモグさせる。炒ったサマルがコップ1杯1トゥグルクぐらいで道端で売られている。おいしくて食べだすとやめられないのだが、米粒よりちょっと大きめの実を、モンゴル人のように手を使わずに口の中で殻を割って食べるには修業が要る。
さて、サマルも9月下旬にはなくなり、いよいよ本格的に冬に向かっていく。短い夏の間、相当がんばって木の実などを採ってジュースやジャムをたくさん作っておいたとしても、長い長い冬にあってはひとたまりもない。
(モンゴル研究会会報『ツェツェックノーリンドゴイラン』1989年2月号掲載)
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