2010年代

ウランバートル西近郊の小麦畑。夏、雨が少なかったため実がついていない
ウランバートル西近郊の小麦畑。夏、雨が少なかったため実がついていない

ウランバートル2015年秋 5

郊外の風景

 

 近郊の草原に広がる農地

 

 ウランバートルから西へホスタイ国立公園に行くとき、中心部から離れると、自動車の修理場、タイヤ交換の店が目立つ。街はずれのエメールテイには皮革取引所が軒を並べる。そこを過ぎるとやがて、麦畑や菜の花畑が広がる。近郊の草原は続々と農地になっているようだ。

 だが9月末、収穫期だというのに、畑の作物はほとんど実をつけていなかった。2015年の夏は雨が非常に少なかったため農産物は不作で、小麦は輸入が必要になるのではないかと聞いた。実がつかないものは家畜の飼料にまわされるという。

 モンゴルでは1990年代、国営農場が解体し一挙に穀物輸入国になったが、数年前から小麦の自給自足が復活。食品売場には国産小麦のいろんな種類のパンが並ぶ。

 土地所有の法整備や、生産者への国の補助金制度など、農耕業再生の政策の成果が出てきているようだ。希望者は、各自治体の土地計画に基づく競売によって耕地を入手・貸借することができる(民間人土地所有法)。遊牧地は憲法の規定により所有・占有できない。

 だが、個人や企業の農業参入が進むなか、遊牧民との間で土地をめぐる衝突や、耕作放棄などによる農地の荒廃化などの問題も生じている(B・エンフタミル『土地関係・登記の250問の答え』2015年)。

 

ウランバートル北東近郊のダンバダルジャーの山裾を埋め尽くす住宅。ゲルも見られるが、木造住宅が増えている。木造住宅にもほとんど煙突がついている
ウランバートル北東近郊のダンバダルジャーの山裾を埋め尽くす住宅。ゲルも見られるが、木造住宅が増えている。木造住宅にもほとんど煙突がついている

北京よりひどい大気汚染

 

 ウランバートルは四方を小高い山に囲まれた盆地で、大気がよどみやすい。小粒子状物質PM2.5による大気汚染は北京が有名だが、冬のウランバートルは北京よりひどいという。

 「北京の汚染に慣れた記者も絶句するほどの深刻さ」という記事が出ていた(「朝日新聞」2016年2月16日付)。マイナス30℃の朝、晴れているのに50m先が見えず、PM2.5濃度の携帯用測定器で測ると、表示できる上限の999マイクログラム/立方mで、日本の環境基準値の28.6倍にもなった。主な原因は、市街地周辺のゲル(テント式住居)住宅地の煙突から出る煙だ。ゲル住宅地の住民の多くは貧しいので燃料に安い石炭を使っている、と指摘する。

 

煙突が林立する住宅地

 ウランバートル市街地では車ナンバーによる自動車通行規制を実施していたが、私が行ったのは9月だったから、それほどひどいとは感じなかった。だが、ウランバートル北東近郊のダンバダルジャーの山裾を埋め尽くす住宅を見ると想像できた。調理したり暖をとるのに一斉に石炭燃料を燃やし、28万~30万本といわれる煙突から煙が出る。脱化石燃料は世界的な課題だが、ここウランバートルは待ったなしだ。

 政府は有力な解決策の一つとして煙の少ない石炭燃料(半成コークスなど)の普及を計画したが、一向に進まない。煙問題は政治家どもがカネをせしめる道具となっているため、「煙の出ない燃料の物語」は終わらない、と日刊紙「ウヌードゥル」2015年9月23日付が批判している。煙の少ない石炭燃料の製造工場を国の資金援助を得て7ヵ所建てたが、工場は資金・人材不足で機能していないという。これらの工場は前年の冬、合計3万5000トンの生産を約束していたのに、産出できたのはわずか2000トン。ゲル住宅地で一冬に消費する石炭は60万トンだという。政府はこの冬「煙の出ない燃料」普及を支援するか否かいまだ決めていないが、市民の健康がかかっている、ゲル住宅地をなくすのも待っていられないと「ウヌードゥル」紙は主張する。

 2016年6月の総選挙で与党・民主党が惨敗したのは、経済低迷や汚職問題が要因と言われているが、大気汚染問題への無策(これも汚職が絡んでいる)も大きく影響しているのではないか。

 

(2016年8月)